8.03.2021

なぜ? 日本語デザイン〈4〉ブランディングにタイポグラフィはどう活きるのか

Matbirdです。前回はブランディングとは何かとブランディングを行うメリットを紹介しました。今回は、ブランディングにタイポグラフィはどう活きるのかについて書かせていただきます。

前回ブランディングとは、マーケティングにおいてコンセプトも同時に伝えて内外に認識してもらうことだと書きました。コンセプトとは言葉なので「伝達方法は声で、アナウンサーの領域じゃないの?」と思われるかもしれません。もちろんそれもあるのですが、実は言葉は大多数が文字で伝達されています。インターネットの環境が良くなってきて動画や音声も利用されるようになりましたが、その場面でもうまく文字と組み合わせられています。あらゆる全ての場面でコンセプトに基づいて一貫した表現をしていくために、文字とタイポグラフィの出番は圧倒的に多いのです。

ビジネスとはあらゆる資源の組織化であるという言葉があります。コンセプトができたとします。次にコンセプトをビジュアル表現に変換してどう伝えたら効果的なのかを計画して、取り決めや仕組みを作らなければなりません。取り決めや仕組みを作らないと毎回検討に時間がかかりすぎてしまうか、都度つどの出来栄えが良ければ幸運ですが出来栄えが悪いことがあるとそちらに足が取られてしまう、もしくはその両方に事態になります。運に左右される部分は少なくしないといけません。この取り決めや仕組みを作る場面で、文字とタイポグラフィが活きる……というより、むしろここは完全にタイポグラフィの世界なのです。

「どんな文字フォントが伝統的なのか」一つとっても答えられる人がどれだけいるでしょうか。伝統的なのか、未来的なのか、中間的なのか、カジュアルなのか。品質は高いのか、低いのか、そこそこなのか。どういうレイアウトが伝統的なのか、モダンなのか、取り回しがしやすいのか。英語やローマ字が組み合わされる場合はどうしたらよいのか。インバウンド対応のビジネスをされている方なら、ネイティブスピーカーに違和感のない欧文にするにはではどうしたらよいのかという疑問も湧き出てくるのではないでしょうか。

こういったものはセオリーがあるというように言われることもありますが、巷に流布されているセオリーが誤っている場合が多くあります。適切な知識で進めることが阻害されるので大変困ったことです。相手の知識に誤った情報はどれくらい混ざっているのか、誤解はあるか、こちらにも誤解はないか、それはどれとどれなのかを選別し、共通認識を作り、適切な知識、本物の知識だけで取り組む必要があります。

また欧文フォントや和文フォントの平仮名に少しこだわりがある方はよくいらっしゃいます。欧文フォントの場合、その欧文フォントは日本語に似合うのか合わないのか、デザインは合うのか、太さはどうなのか、エックスハイトはどうなのか、合うとしたらフォントファミリーの中のどれなのか、同じ文字サイズで組み合わせるとどうなるのか、文字サイズを変更するならどんな環境でどう使うのか……といった考慮が必要になります。和文フォントなら平仮名だけでなく、漢字はどうなのか、片仮名はどうなのか、役物・記号類はどうなのか。

もっと踏み込むと、記号の仲間に丸付き数字「①」「❷」というものがあります。例えばこの記号をよく使うとしたらそれは見やすいデザインになっているのか、必要な桁数まであるのか、ないならどうするのかといったことも考えてきました。

ここまで主に本文について触れましたが、ロゴタイプ・ロゴ系フォントやレタリングにおいても「これはかっこいいけれど、文字として不自然だから、ここだけ直しらもっと良くなるのに惜しいな」と思うこともままあります。

そして、これらを解決できることを前提として、コンセプトに沿って表現を検討することが受け取り手にとって本当にフィットする気持ちいいブランディング表現になっていくと我々は確信しています。

ブランディングには、文字とタイポグラフィが決め手になります。ここに何か事例を載せようと思ったのですが、イメージが固定化されてしまうと良くないと考えて載せないことにしました。若干の不親切をお許しください。的場は現在作品を公開していませんが、加納佑輔さん(そうさす)は作品を一部公開していますので、ご興味にある方はぜひご覧になってください。

「なぜ? 日本語デザイン」を4回に渡って書かせていただきましたが、おわかりいただけましたでしょうか。このようなこと考えて、わかりやすさ、楽しさ、有用さ、安全な場所づくりを基本に置いて活動しているのが我々日本語デザイン研究会です。


参考文献 福井晃一『デザイン小辞典』ダヴィッド社、1978、1996
そうさす https://sosus.co.jp/