こんにちは、Matbirdです。加納佑輔さんがTwitterで企業内デザイン部署はフォント購入の予算が認められないというツイートをしていました。
『インハウスデザイナーを考えている人は、その企業の制作環境は確認した方がよいと思います。セミナーに来てくれたインハウスのデザイナーさんに聞くと、フォントがない・買ってもらえないという話がけっこう多いです』(2021年7月21日)
近年コンプライアンスを言われるようになって少し変わってきましたが、そうなると今度は「フリーフォントでやればいいじゃん」、「そんなのスマホのアプリで5分でできるゾ」という破壊的な言葉が広まってきていると私も経験上理解しています。
これは、例えば木こりだとしたら、斧ものこぎりも使わずに木を切ることはかなりの困難を伴うことは当然です。この理屈が社内デザイナーの場合だとわからなくなる人が多いということはおかしな話です。
フォントやPCなどのデザインツールなしで、メディアが飛びつくプレスリリースができ、目が覚めるような写真が仕上がり、世界を変えるキャッチコピーが生まれ、タイムラインからゴールデンタイムのテレビへ飛び出すような動画ができ、他社を出し抜くブランディングデザインができてくると思ってしまう人が巷に多いようです。
また、「Illustratorが使えて凄いね」「ソフトの機能がわかればオレでもなんとかなるんだ」という話もよく耳にします。Illustratorが操作できるだけではプロジェクトは進みませんし、魅力的なものは出てこないでしょう。その道の教育を受け、技に磨きをかけてきたデザイナーが、あるときは自ら手を動かし、またある時は多くの専門家とのハブとなって、腕を振るってもらうことを前提にしなくてはいけません。
全ての人にリスペクトのある仕事環境を作りたいものです。
飛躍した考えや誤った考えが世の中に広まっている状況があるので、加納さんが書かれたように、デザイナー側でも入社前に確認しておくことを私もおすすめします。ただ、確認したがためにそもそもの採用の話の雲行きが悪くなったり、既に就業されている場合は社内の立場が危うくなることも想像できます。
また、「ツールが必要ですよ」と言うならば、ビジネスマンなら何が必要で、いくらかかるのかという話もある程度できる用意がいります。そこで、下に2021年5月現在のデザインツールのおおよそ価格を記しましたので基準になれば嬉しいです。
今困っているインハウスデザイナーさんは、是非職場と交渉していただき、是非斧を手に入れてください。また企業サイドの方にもご参考になりましたら幸いです。
■デザインツールの概算
iMac (Retina 5K, 27-inch, 2020)カスタマイズ済 330,000
TimeMachine用外付け2TB HDD 15,000
A3対応インクジェットプリンタ 40,000
--------------------
①ハード計 約¥385,000
Adobe Creative Cloudグループ版 106,000/年
Morisawa Passport 55,000/年
Font Works LETS 55,000/年
MonoType LETS 27,000/年
Shutterstock(画像50点/月) 120,000/年
--------------------
②ソフト(サブスク)計 約¥363,000/年
LETS入会金 33,000
--------------------
③ソフト入会金 計 約¥33,000
取り付け 50,000
保守 2,500×12ヵ月=30,000
--------------------
④取り付け・保守計 約¥80,000
▶初年度 ①+②+③+④=¥861,000
▶二年目以降はサブスク代のみ③=¥363,000
※1,000円未満は、切り上げしています。
※2021年5月現在の事例です。印刷機材商社、PCショップ、画材店などでご自身の環境に合わせた見積を取ってください。
※ハードの支払い方法は一括で払うのか、ローンにするのかが選べると思います。
※Shutterstockは月払いや都度支払のプランもあります。
※取り付け・保守は計上したされることをおすすめします。なぜなら取り付け・保守費用よりも、デザイナーの時給分の方が高くなるはずです。
私もインハウスデザイナーが困った立場に追いやられる事例を見てきています。
コンプライアンスに配慮しないといけないので、フォントをフリーフォントだけでという声は少なくなっていると思いますが、「Adobe Fontsだけでやればいいじゃん」という考えが根強くあります。Adobe Creative Cloudに付随するAdobe Fontsは、Adobe製フォントの約9割が使える大変ありがたいサービスです。しかし、Adobe Fontsだけで業務でのフォントの需要を賄うことはできません。欧文フォントに限ってもAdobe Font Folioのフォントは全が含まれているわけではありません。また、和文フォントはフォントの種類が少ないだけでなく、太さのバリエーションが揃わないものがほとんどです。Adobe Fontsはフォントの見本市の性格もあるので、製品版フォントと比べて漢字の数が減らされているフォントもあります。そして、Adobe Fontsに新しいフォントが追加される場合もありますが、削除されるフォントもあります。これは注意点になりますが、Adobe FontsのAdobe 製以外のフォントはお試しで使ってみて、気に入ったら購入するという位置づけで使われることをおすすめします。
こちらはメリットですが、Morisawa Passportでは「TypeSquare」のWebフォントが利用できます。別途契約を結ぶ必要や使用料が発生することなくWebでも同じフォントが利用できます。Font Works LETSでも「FONTPLUS for LETS PUTK」としてFONTPLUSのWebフォントの中からフォントワークスのフォントのみWebフォントの利用ができます。フォントのサブスクリプションのサービスでは、このほかフォント管理ソフトや数字フォントなどの便利な機能も提供されています。フォントが増えても支払いは一定ですのでコスト計算が明瞭です。契約が一括であることとライセンスが明確という点はビジネス上見逃がせません。フォントのサブスクサービスは導入するメリットが大きいと言えます。
これらを踏まえて先述の金額にひるんでしまうようなら、質が求められるデザインの仕事は本来的にあまりないと思われます。Kinko’sなどの簡易的なデザインも引き受けてくれるプリントサービスビューローと取引されるのが適切な状況だと思われます。
「もうデザインツールは用意してある」とスペックが足りていないPCなどが用意されている場合は、理解があるように見えて実はややこしいです。クリエイティブへの敬意が低く、入社後何かと話がかみ合わないことも想像されます。
また、「うーん。これは投資だね」と言われるようでも、デザイン部署を作るタイミングが早いと思われます。複数台ならともかくデザインツール1セットなら趣味のために個人でも揃えている人が多いです。そういう金額レベルです。
こういった状況の企業は、まだデザイナーを雇用できるレベルではないかもしれません。
経営側とデザイナー側とでお互いに必要なデザインツールやそれらのおおよその価格を知っていて、故障した場合の代替機をどうするか、もう一人スタッフを入れて一台増やしたい場合はどうなるのかといった相談から始まるような会話が第一歩なら信用できるパートナーとなり得るのではないでしょうか。
日本語デザイン研究会は、全てのデザイナーの成功と社会へのブランディングの浸透、そして社会の発展を願っています。