7.20.2021

なぜ? 日本語デザイン〈2〉マーケティング

Matbirdです。前回、日本語デザイン研究会は、出版と広告のタイポグラフィのクロスオーバー(垣根を越えてまじりあうこと)を目的としている。中部地区は商業の方が盛んなので、どちらかというと出版のタイポグラフィのテクニックを広告に持ち込むことに重心を置いていると説明しました。そこで今回から経済活動と日本語デザインの関わりについて書かせていただきます。

結論を先に書くと、「ブランディングには、文字とタイポグラフィが決め手になる」。時間がない人はこれだけを覚えておいていただければ良いかもしれません。ただし一点注意事項として、ブランディングには手間暇がかなりかかります。現代は情報が溢れているが時間がない時代だとも言われています。手間暇のコストが許容できない人はここでこの記事を読むことを止めていただき、今ある商品をどう販売するのかに徹することをおすすめします。

ここからは、ブランディングに手間暇をかけられることができる人のために簡単にマーケティングについて説明していきます。

経済活動と日本語デザインの関わりを語る上でのキーワードは3つ。セリング、マーケティング、ブランディングです。セリングをごく簡単に言うと、今ある商品をどう販売するかです。次にマーケティングとは、人の欲求や願望を調べ、それに基づいて売れる商品を作る活動です。ピーター・ドラッカーは、『マーケティングは販売を不要にする技術だ』と言っています。セリングとマーケティングは別物とする考え方もありますが、マーケティングと一体的に売り方も考えることが多いでしょう。よって経営は安定し、資金も集まり、優秀な人材も集まり、業績もさらに望ましいものとなっていくことでしょう。

マーケティングは必要なのかと問われたならば、企業や組織が社会の中で機能し存続していくために必要不可欠だといえます。

マーケティングについて少し教科書的になりますがもう少し踏み込んで書かせていただくと、マーケティング活動では、仮説を作り、分析を行い、新商品やサービスを開発し、新市場や新規顧客を開拓します。マーケティングの手法には、製品(Product)、価格(Price)、流通(Place)、プロモーション(Promotion)の手法があります。いわゆるマーケティングの「4P」です。後年「4C」という要素も加わりました。顧客にとっての価値(Consumer Value)、顧客にかかるコスト(Cost)、顧客にとっての利便性(Convenience)、顧客との対話(Communication)です。「4P」と「4C」といった要素を組み合わせて売れる商品を作っていきます。「製品」や「プロモーション」という言葉からも、これを読んでいる方にはなんとなく文字とタイポグラフィが関係しそうだと想像していただけると思います。

しかしセリングであっても文字とタイポグラフィは関係します。POPや価格表やセールスバインダーなど、販売の場面でも文字とタイポグラフィの影響は小さくありません。例えば価格表だと、大きくしたい文字、小さくしたい文字があり、その文字組みによって売り上げが左右されるということがあるのではないでしょうか。

ただし、文字とタイポグラフィにとって卵が先か鶏が先かというと、マーケティングが先です。セリングの場面ではマーケティングで構築されたビジュアルデザインと体裁を合わせる場合が多いでしょう。よってマーケティングが重視されていない環境では、文字やタイポグラフィへの議論は起きにくいでしょう。その逆も言えて、文字やタイポグラフィへの議論が少ないということは、あまりマーケティングが取り組まれていない可能性があるので振り返りが必要かもしれません。

次回はブランディングについて触れます。


参考文献 福井晃一『デザイン小辞典』ダヴィッド社、1978、1996