12.18.2020

文芸出版業界を描いたコミック、『ようこそ!アマゾネス☆ポケット編集部へ』が衝撃的におもしろい



ご無沙汰しております。的場仁利です。いろいろありまして前回の投稿から6年経ちましたが、「デザインナイト()」というイベントのオーガナイザー兼DJのMatbird(マットバード)としてデザイン業界に関わらせていただいています。これからはMatbirdと呼んでください。

「デザインナイト」のことは追々お話させていただくとして、今回は2020年11月12日に第二巻も刊行されて話題沸騰中のコミック、ジェントルメン中村さんによる『ようこそ! アマゾネスポケット☆編集部へ』(講談社)のおもしろさを紹介させていただきます!

このお話は、出版業界を描いたコミックなのですが衝撃的におもしろいのです。
私はSNSで知りもちろんらくだ書店()で購入し。仕事も忘れて一気に二巻とも読破してしまいました。私もグラフィックデザイン、商業印刷、出版印刷に携わってきたのですが、常にニヤニヤ&大爆笑の連続でした。これは、「文字」に興味のある方には超おすすめです!

この作品は、なぜか屈強な女性編集マンばかりの文芸編集部を舞台に、濃すぎるタッチと熱すぎるストーリーで「本のプロ」を描くお仕事漫画。一話完結型で、新人編集者の白柳紀乃子(しろやなぎきのこ)が編集長の才堂厚子(さいどうあつこ)他屈強すぎる先輩達の背中を見て成長していくストーリーです。
先ず『北斗の拳()』のようなタッチが独特すぎる異彩を放っています。
また、表紙から始まっている特殊なルビ遣い、いわゆる「ルビ芸」に笑わされます。文芸出版とは関係ありませんが……第20話で公私混同にアニータ()を振っていたのには大爆笑でした。

出版の専門用語とマニアックな話が満載。私も達筆の文字を結構読めてしまうのですが、第5話の達筆読解では、読めるだけでなくその先のもう一つ先まであって深すぎる奥行に脱帽です。

毎回登場人物達のプロのせめぎあい=立場の違いによる一触即発のバトルに発展するのか!?というシーンが見どころです。そして仕事への真摯すぎる思いが炸裂し、バトルの状況が一転し、作品中で「ほっこり」と表現される超さわやか・超ハッピーエンドでまとめられ、絵柄のタッチとは似つかわしくないポジティブなオチに小恥ずかしい感情にさせられ、毎話笑ってしまいます。

登場人物は毎回個性的ですが、実在の人物がモデルになっているキャラクターも登場します。年間一年の日数よりも多い!?数の本の装丁を手掛ける日本を代表する装丁家で、モリサワのディクショナリーのデザインも手掛ける、文字・DTP界の大先生でもある坂野公一さんをモデルにした装丁家坂戸公介(さかどこうすけ)が登場するシーンが見逃せません。
坂戸公介は、見た目もヨウジ・ヤマモト()を着こなすザ装丁家の坂野さんそのまま。「装丁家は作家の無理難題を受け止めるキャッチャー」とは、坂野公一さんの言葉とのことで、坂野さんご本人もコミック以上の熱気。装丁家坂戸公介は、第一巻・第二巻ともに登場する準レギュラー(?)になっています。
第6話に、装丁家坂戸が『虚空の河』という本の表紙デザインを提案するシーンが出てくるのですが、このお話に登場する前までのデザイン案の変遷を坂野公一さん本人が実際に作られ「ジェントルメン中村のホッコリブログ!!()」で公開されています。作ってしまうとはサービス精神旺盛でおもしろすぎです! もちろんこちらも見逃せません。

坂野公一さんはもちろん『ようこそ! アマゾネスポケット☆編集部へ』の装丁も手掛けられており、この作品のデザインについて日本語デザイン研究会にお話しくださりました。


Matbird)いつもお世話になっております。『ようこそ! アマゾネスポケット☆編集部へ』の単行本のデザインのポイントをお聞かせください。

坂野公一)特に主人公の才堂厚子が社内のファッションリーダーで、そんな女性編集者達のお話なので、カバーはカラフルでファッショナブルな雰囲気の色使いにしています。書体のセレクトもポップで派手目なものを選び組み合わせています。ちなみに装画自体はモノクロ線画で彩色は坂野が施しています。
本文は日ごろ主人公たちが作っている『アウトポケット』という雑誌の体裁を模したデザインにしています。扉や目次をご参照ください。カバーと真逆で落ち着いた明朝系の書体を使って文芸誌然な雰囲気を出しています。
総じてジェントルメン中村氏の力強い絵との相性を考慮したデザインバランスを意識しています。

Matbird)ご解説ありがとうございます。さすが意図通りの仕上がりですね。表紙の力強い絵との相性も絶妙で、カラフルポップに仕上がっていますね。表紙の印刷について、色がとても綺麗ですが色指定は特色なのでしょうか?

坂野公一)カバーはご指摘のとおり特色を加えた5色刷りです。今回の第二巻は、Pantoneの鮮やかなオレンジを使いました。第一巻は、いわゆる「ケイピン」と呼ばれる蛍光ピンクを。

Matbird)本文の目次やコラムは、本編に対してレイアウトやフォントのメリハリがきいていて、コミックっぽくない上品さで文芸書編集部の雰囲気がとても出ていますね。この作品はルビが特徴的なのですが、やはりAdobe InDesignを使われているのでしょうか?  

坂野公一)本文は全てInDesignで作っています。坂野が担当したのは扉や目次などのページのみ。本文は印刷所でセリフを置いているのですがそれもInDesign使用です。  

Matbird)細かくご説明くださり恐縮です。今回坂野さんのデザインの発想に触れることができ、また坂野さんの卓越したお仕事にはツールもInDesignをはじめとするより品質の高いものが使われている一端に触れることができとても勉強になりました。ありがとうございました。 

『ようこそ! アマゾネスポケット☆編集部へ』は、一般の方には日頃うかがい知ることができない出版業界の舞台裏を垣間見ることができ、業界関係者にはマニアックかつアルアルなコミックに仕上がっていて読みごたえ満点でおすすめです。皆様ぜひご一読を!!

追伸:MC紳士さんにもデザインナイトで共演いただきたいです!


ようこそ! アマゾネス☆ポケット編集部へ(講談社BOOK倶楽部)https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000319959
ようこそ! アマゾネス☆ポケット編集部へ2(講談社BOOK倶楽部)https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000347789

坂野公一/welle design 株式会社 http://www.welle.jp/

9.03.2020

ウェブタイポグラフィの講座

 ナルホ堂 書体&タイポグラフィ企画第2弾として、『クリエイターにも知って欲しい ウェブタイポグラフィ活用講座』を開催します。

話題の書『ウェブタイポグラフィ』の監訳をされた、鈴木丈さんに登壇していただきます。『ウェブタイポグラフィ』は『ウェブ』とありますが、タイポグラフィを勉強したい人は必読の本だと思います。ウェブと紙媒体の違いとしては、サイズの概念がウェブの場合は相対的であるといったところでしょうか。ページものをあまり扱わない、チラシなどがメインのグラフィックデザイナーは、文字まわりを数値で管理することが苦手な方が多い印象です。これは、デザインを学ぶときにまずIllustratorで制作することから始めることが多いことが主な原因だと思います。真っ白なアートボードに自由自在にレイアウトできることは一見魅力的ですが、タイポグラフィを学ぶにあたっては、かえって遠回りになると思います。文字の大きさや行間設定、配置など、タイポグラフィは、数値(グリッド)を意識するだけで、効率的に美しさと読みやすさが実現できます。この機会に、本格的なタイポグラフィの入口を体験していただきたいと思います。オススメの講座です。




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