7.31.2021

Adobe Fontsには、Adobe製フォントは全て含まれるのか?

Matbirdです。Adobe Fontsはユーザーにとってとてもありがたいサービスですが、モリサワの多くのフォントが2021年9月10日に提供を終了すると発表され、「使えない」「不安だ」と騒がれています。

ただ他社製の和文フォントは、元々フォントの種類が少ないばかりか太さのバリエーションが揃わないものがほとんどです。Adobe Fontsはフォントの見本市の性格もあるので、製品版フォントと比べて漢字の数が減らされているフォントもありますので、ユーザー側でもある程度予想していたのではないでしょうか。

今回は他社製のフォントではなく、Adobe製のフォントがAdobe Fontsでどれくらい使えるのか調べてみました。

調査方法としては、WikipediaのAdobe Originalsの「List of Adobe Originals families」の表をもとに、『Adobe Type Library Reference Book, Fourth Edition』も参考にしつつ、Adobe Fontsの フォントメーカー「Adobe Originals」でソートをかけて出てきたフォントファミリーと比較してみました。

集計したところフォントは178ファミリーにのぼりました。その中で「×」印の使えないものが20ファミリーでした。Adobe Fontsで使えるAdobe Originalsのフォントは158ファミリーが提供されていました。結果として、Adobe FontsはAdobe製のフォントの中から約9割使えることがわかりました(2021年7月31日現在)。
元となるリストが完璧ではないのではっきりとは言えませんが、使えるものはウエイトやバリエーションが揃っているように見受けました。例えば新しい考え方で設計された高品位なフォント「Garamond Premier」は34バリエーション全て揃っており、もちろん全て使えます。感想として、「×」印のものは、RadやToolboxのような凝ったディスプレイフォントが比較的多いように思いました。

他社の系列上にあるHelvetica Now、Univers Nextなどは収録されていないので使えませんが、Adobe製のフォントを使う分にはAdobe Fontsほぼ完全で安定的に使えるサービスでしょう。




参考文献
Wikipedia/Adobe Originals(https://en.wikipedia.org/wiki/Adobe_Originals)、2021年7月31日
Adobe Systems Incorporated『Adobe Type Library Reference Book, Fourth Edition』Adobe Press、2012
Adobe Fonts/Adobe Originals(https://fonts.adobe.com/foundries/adobe)、2021年7月31日

7.27.2021

なぜ? 日本語デザイン〈3〉ブランディング

Matbirdです。前回はマーケティングに「製品」や「プロモーション」という言葉が含まれていて文字とタイポグラフィが関係しそうだというところまで紹介しました。今回は、まだ触れていなかったキーワード、ブランディングについて書かせていただきます。

ブランディングとマーケティングという言葉がありますが、実はこれらは別物ではありません。マーケティングの戦略にブランディングがあります。

ブランディングは「自社製品や企業そのものの価値やイメージを高めようとすること」などとよく説明されています。正しいと思うのですがこれではわかりにくいと私は考えています。ブランディングをごく簡単に言うならば、「我々は、○○な人のための□□のプロフェッショナルです」ということに集約できます。これをコンセプトとも言います。ブランディングとは、マーケティングにおいてコンセプトも同時に伝えて内外に認識してもらうことです。

ブランディングを行うメリットとしては、手間暇がかかりますがファンを作ることができ、ブランド価値を生かした価格設定ができ、優秀な人材も集まるでしょう。ブランディングを行うことはマーケティングをより強化します。

いいことずくめなのですが、一点注意事項として、ブランディングには手間暇がかなりかかります。そのコストが許容できない方には、私はセリングに徹することをおすすめしています。ブランディングもマーケティングも絶対にしなくていけないものではありません。

ここでは、ブランド価値を生かした価格設定とはどういうことかを簡単に説明します。例えば同じデザインで同じ素材のTシャツがあるとします。ブランド力があるかないかで価格が異なっていても消費者は違和感なく受け入れてくれます。ブランド力がない場合500円でしか売れないTシャツが、ブランド価値が付加されると10,000円でも買ってしまうことに頷ける人は多いのではないでしょうか。魅力的なブランドがあると、その価値をもとに価格設定が行えるため、利益率が高く、収益性も向上することでしょう。これが簡単なブランディングを行うメリットです。

次回はブランディングにタイポグラフィはどう活きるのかについて触れます。


参考文献 福井晃一『デザイン小辞典』ダヴィッド社、1978、1996

7.20.2021

なぜ? 日本語デザイン〈2〉マーケティング

Matbirdです。前回、日本語デザイン研究会は、出版と広告のタイポグラフィのクロスオーバー(垣根を越えてまじりあうこと)を目的としている。中部地区は商業の方が盛んなので、どちらかというと出版のタイポグラフィのテクニックを広告に持ち込むことに重心を置いていると説明しました。そこで今回から経済活動と日本語デザインの関わりについて書かせていただきます。

結論を先に書くと、「ブランディングには、文字とタイポグラフィが決め手になる」。時間がない人はこれだけを覚えておいていただければ良いかもしれません。ただし一点注意事項として、ブランディングには手間暇がかなりかかります。現代は情報が溢れているが時間がない時代だとも言われています。手間暇のコストが許容できない人はここでこの記事を読むことを止めていただき、今ある商品をどう販売するのかに徹することをおすすめします。

ここからは、ブランディングに手間暇をかけられることができる人のために簡単にマーケティングについて説明していきます。

経済活動と日本語デザインの関わりを語る上でのキーワードは3つ。セリング、マーケティング、ブランディングです。セリングをごく簡単に言うと、今ある商品をどう販売するかです。次にマーケティングとは、人の欲求や願望を調べ、それに基づいて売れる商品を作る活動です。ピーター・ドラッカーは、『マーケティングは販売を不要にする技術だ』と言っています。セリングとマーケティングは別物とする考え方もありますが、マーケティングと一体的に売り方も考えることが多いでしょう。よって経営は安定し、資金も集まり、優秀な人材も集まり、業績もさらに望ましいものとなっていくことでしょう。

マーケティングは必要なのかと問われたならば、企業や組織が社会の中で機能し存続していくために必要不可欠だといえます。

マーケティングについて少し教科書的になりますがもう少し踏み込んで書かせていただくと、マーケティング活動では、仮説を作り、分析を行い、新商品やサービスを開発し、新市場や新規顧客を開拓します。マーケティングの手法には、製品(Product)、価格(Price)、流通(Place)、プロモーション(Promotion)の手法があります。いわゆるマーケティングの「4P」です。後年「4C」という要素も加わりました。顧客にとっての価値(Consumer Value)、顧客にかかるコスト(Cost)、顧客にとっての利便性(Convenience)、顧客との対話(Communication)です。「4P」と「4C」といった要素を組み合わせて売れる商品を作っていきます。「製品」や「プロモーション」という言葉からも、これを読んでいる方にはなんとなく文字とタイポグラフィが関係しそうだと想像していただけると思います。

しかしセリングであっても文字とタイポグラフィは関係します。POPや価格表やセールスバインダーなど、販売の場面でも文字とタイポグラフィの影響は小さくありません。例えば価格表だと、大きくしたい文字、小さくしたい文字があり、その文字組みによって売り上げが左右されるということがあるのではないでしょうか。

ただし、文字とタイポグラフィにとって卵が先か鶏が先かというと、マーケティングが先です。セリングの場面ではマーケティングで構築されたビジュアルデザインと体裁を合わせる場合が多いでしょう。よってマーケティングが重視されていない環境では、文字やタイポグラフィへの議論は起きにくいでしょう。その逆も言えて、文字やタイポグラフィへの議論が少ないということは、あまりマーケティングが取り組まれていない可能性があるので振り返りが必要かもしれません。

次回はブランディングについて触れます。


参考文献 福井晃一『デザイン小辞典』ダヴィッド社、1978、1996

7.13.2021

なぜ? 日本語デザイン〈1〉何を目指しているのか

Matbirdです。今回から4回に分けて、日本語デザイン研究会はどういうものなのかについて説明させていただきます。

我々日本語デザイン研究会は、『タイポグラフィ不毛の地と言われた、中部地区において、文字と日本語のデザインの大切さを広め、文字に興味をもつすべての人たちのために「情報交換の場」を作るべく活動します』と謳っています。これはどういうことかを一歩踏み込んで説明しますと、出版と広告のタイポグラフィのクロスオーバー(垣根を越えてまじりあうこと)を目的としています。

我々が文字が大切だと言いますと、反射的に「難しい世界だよね?」「フォントオタク、印刷オタクだよねー!」と言われることがままありますが……わかりにくさの改善には応えないといけないと思うものの……全く違います。日本語デザイン研究会は、わかりやすさ、楽しさ、有用さ、安全な場所づくりを基本に置いて加納佑輔と的場仁利が運営しています。不定期でイベントを行っていますが、積極的にメンバーの募集をしていませんので現状二人の間で日々文字とタイポグラフィの情報がやり取りされています。

出版と広告のタイポグラフィがクロスオーバーされるとどういう良いことがあるのでしょうか。出版や印刷の方には広告のアイデアを吸収し、タイポグラフィをよりセンスの良いものにしていただけるでしょう。そして広告の方には、出版物に見られる高品質なフォントを知ることができ、精緻な文字組やレイアウトを身に着けられるなどのメリットが期待できます。そして、中部地区は商業の方が盛んですので、どちらかというと出版のタイポグラフィのテクニックを広告に持ち込むことに重心が置かれています。

次回は、経済活動と日本語デザインの関わりについて触れます。


参考文献 福井晃一『デザイン小辞典』ダヴィッド社、1978、1996